稽古日日誌(121日)

         『物を数える1と、リズムの1は違う』

今年最初の稽古です。本年も宜しくお願いします!と、言うことで劇団さくらは今年も勉強に励みます。

最初は弥惣兵衛の九九の暗誦から始まりました。ところが九九は既に終っていて、今は11の段になっています。11の段?何とも不思議ですが、団員達は何の抵抗もなくリーダーに合わせて懸命に暗誦しています。リーダー弥惣兵衛は一体どこまで団員達に教えようとしているのでしょうか?

暗誦が終ると挨拶も後、歩行訓練が始まります。冬休みがあったためでしょうか、何となく重く遅れている感じがした私は全員を集めて理論の勉強をさせることにしました。

(知的障害者に何で理論の勉強なんだ?と訝る方も居られるかと思いましが、彼等は此処での稽古に慣れると理論の方が理解し易いようで、実に熱心に勉強をします)

ホワイトボードに縦長の楕円を大きく書きました。そして真ん中の中央に縦の線を引きました。そして、この楕円は『時計回りに回りながら左に進む』としました。(これは人間の上体の運動を示したもので、下肢はこの楕円の下にもう一つの楕円があり、時計と反対回りをしています)

私は『さあ、4拍子の1は何処になるだろう?』と言って全員に1の場所を記入させました。さくらの団員の楽しい所は全員が他人とは違う答えを書くことで、団員達は考えながらそれぞれ違った所に印を入れました。そして、その後に私と全員で考えます。

『この円は左に進んでいるよね。そうすると(中央の縦線を示して)この線より右側だと遅れてしまうよね。左かな?』すると『真ん中だ!』と叫ぶような目付きを団員達はします。実際に楕円の上と下、中央線に近い所に印が幾つか付いています。

『真ん中の下だとこの円は落ちて前に進まないよね。上だと浮いて後ろの方に飛んで行ってしまうよね』・・・この説明で全員が???になってしまいました。そこで今度は楕円の中央に横の線を加えました。つまり楕円を4等分にしたのです。そしてまた質問です。『さあ、この四つの場所の何処に1があったら前に進み易いだろう?』この質問で全員が左側の上か下に1が有ることに気付きました。そこで改めて説明します。

『確かに左側だけど下だと前に転んでしまうので左の上が正解だね。もっと正確に言うと斜め45度の所に進行の1はあるんだ。だから誰と誰が正解だね』・・・驚いたことにこの場所近くに印を入れた団員がいたのです。

その後、長い棒を縦、横、45度と3本使って実際に1が何処に有るか(Tシャツの胸のマークあたりですね)を体験し、歩行訓練を再度行ないましたが、勉強前と全く違う

リズムに乗った素晴らしい歩行になりました。

勿論この理解には下肢の回転と頭部の回転も理解する必要がありますが、ここでの問題は『物を数える1と、進行を表す1は違う』ということです。残念ながら日本の教育の現場ではこのことを教えてくれませんでした。音楽の現場でもダンススタジオのような所でもこのことを考える人は居ないでしょう。しかし、彼等は言葉の意味が分からなくても『進行には高揚性が必要』と体感的に知るのです、

『人間の運動は回転運動だ』ということも理解し難いことだと思います。演劇の演技や

歌やダンス、発達に至るまで、全てに必要な重要な問題ですので、関心のお有りの方や

勉強なさりたい方は是非劇団さくらの稽古にご参加下さい。

今年も劇団さくらの団員達は勉強します。

                  

 稽古日日誌(127日)

           『自立するための学習』

知的障害者のことをよくご存知でない方には最近の劇団さくらの稽古は難しく感じるかも知れません。しかし、内容を見れば決して彼等にとって難しいものではなく、彼等個々の潜在的能力や個々の判断力を重視した指導を行なっているので難しいと感じるのだと思います。

今日の歩行訓練は『交差』です。上下2組に分かれた団員の列が稽古場を斜めに歩行する訓練なので稽古場の中央で斜めに交差します。当然一人ずつ間を抜けて行きますので『他人に影響されない歩調』を重視した行進が必要になります。

しかし、一般的に彼等は他人に影響されてしまいます。個々の歩調を合わせた個人としての行進ではなく、『前の人に付いて行く』又は『他人を避けてしまう』という歩行になってしまいます。また、彼等は一般的に斜め前方に目標を持つことが不得手で、どうしても遠方の目標を見失ってしまいます。

勿論このような問題は彼等の機能上の問題なのですが、このような時、劇団さくらの指導ではホワイトボードを使い図解しながら何度も説明を行ないます。(理解は他人の真似をできませんからね)そして夫々が理解を確信するために立って稽古を行ないます。

実際に今日の稽古で最終的にはかなり正確に交差の歩行が出来るようになりましたが、

この方法での指導で問題なのは『頭で先に理解しているので、間違った場合は迷いになってしまう』ことであり、劇団さくらでは『間違うから稽古があるので、間違うことは恥ずかしいことではない』と何度も教えています。(これも実際には「わざと間違える」という「他者の利用」を招く怖れがありますが)

近年になって知的障害者だけでなく、一般の若い人達に至るまで演劇やダンスなどの文化活動は、より自由に思いのままに演じることを重要視しているように見受けられますが、これはしっかりした基本が出来てある程度経験を積んでのことであって、基本訓練も論理的知識もなく自由に行なうことは『幼稚化』を避けられません。

『無邪気』を通り越して『幼稚』を面白可笑しく提供しているテレビなどの影響があるのかも知れませんが、一時的な幼稚化は成長すべき人間の発達から考えれば『退行』を意味します。また、趣味や娯楽では芸事は上達しません。一つずつ基本を積み上げて演技を学んでいる劇団さくらの団員達は実に立派に見えるようになりました。


稽古日日誌(2月3日〜4日)


          『自立するための学習 その2』

節分を迎え、劇団さくらの稽古も2日続きで行なわれました。劇団さくらの稽古は原則週1回のペースで行なっていますが、指導という面で言えば最近の日本は何処かおかしくなっている気がします。

学校などでの『苛め問題』は組織として問題化していますし、クラブ活動や相撲部屋、柔道家に至るまで『暴力問題』はオリンピック招致までに暗い影を落としています。

世相として、どうしてこうなってしまったのかと考えると、そこには『論理的説明がなされていない』という指導に最も重要な問題が果たされていない点が忘れられているように感じます。

古来から日本人は組織や規則に従順であり、それを『生真面目さ』として私達は受け止めて来ましたが、反面このことは『精神的圧迫』を受け易いことも示しています。多くの場合、このような問題はルールという精神的圧迫の環境の中で起っています。指導者側が絶対的有利な環境で生徒側が『何故そのような訓練や稽古が必要なのか?』と質問する状況ではない時に悲劇は起っています。

現代は自由が尊ばれる時代ですが、それは『俺達はルールなんて関係ない』という『制限無き自由』に向って猛進している状況かも知れません。そんな世相の中で『理由なき訓練重視』の環境では問題が起って当然です。

何かと流行や報道には敏感で肯定的でありながら身近のことには否定的になり易い現代日本人として、もう一度物事を論理的に考え直す時期に来ているのではないでしょうか。

ということで、2日続きで行なわれた劇団さくらの稽古は『目標に向かって、しっかり歩く。交差は譲り合い、避けるは×』というテーマで行いました。

稽古場には何時も横一杯にAラインからFラインまで6本のバミリテープを貼ります。そしてそのテープには中心を0番として上下に90センチ間隔で8番までの番号が書かれています。

今回の稽古は、弥惣兵衛組と松吉組が上下に分かれてAラインの7番から奥に向かってFの7番まで進んだ後、舞台対角線上のAの7番に向かって歩きます。

そして再び奥のFの7番に進み、対角線上のAの7に向かって歩きます。

この舞台を斜めに歩く歩行訓練は、上手と下手に分かれた2組が同時に行なうので当然舞台中央で交差します。一人ひとり交互に抜けて行く歩行は彼等でなくても難しい歩行ですが、舞台で演技を行なう人にとっては絶対に必要な行動です。学校などで、このような団体行動だけを行なう演技もあるようですが、劇団さくらは演劇集団ですからこの訓練で必要なことは、『しっかり歩くこと』『斜めに真直ぐ目的位置Aの7番に行けること』の2つです。交差は必要上起ることですが、交差を整然と行なえなければ混乱が起ります。

この訓練での注意事項を『目標に向かって、しっかり歩く。交差は譲り合い、避けるは×』とホワイトボードに書き出しました。皆様には一見して『観念論』のように感じられると思いますが、実はこれには『論理的な理由』があって、彼等はそのことを理解しながら訓練に励んでいますが、それをご説明しますと、

最初の『目標』とは『視点』のことで『ものの見方』を表しています。そして『向って』とは『方向』を指しています。つまり、意志力の方向・協調性の方向・自制心の方向です。次の『しっかり歩く』とは『現存在』を表していますが、『歩く』ことは前進を意味し、『現存在』で言う『あゆみの運動』を指しますので結果として『しっかり歩く』とは『飛翔の運動と爬行の運動を持ったあゆみの運動』となります。劇団さくらではこのことから『目的を持って』右方向へは『押す(意志力)』、左方向へは『引く(協調性)』、正面前後へは『立てる(自制心)』という、行動を具体化した運動として稽古しています。

また、次の『交差は譲り合い、避けるは×』の理由は、交差で他人を避けると一瞬『目標を失う』ためで、譲り合う行動は『目標を失うことなく、他人との間尺が取れる』という理由があります。

このように劇団さくらでは『ガンバレ!』『出来るまでやれ!』『上手くなりたければもっとやれ!』というような『観念』となるような訓練は必要ありません。出来なければ何回でも論理的に説明し、何でこのような訓練を必要かを団員達が考える稽古を行なっています。

最近は指導者の資質が問われるような問題ばかり起っていますが、本当は指導者の資質ではなく、指導者の勉強不足が原因だと思います。訓練や稽古では『出来るまでやらせる』ではなく、『何故出来ないのか?どうしたら出来るか?』を指導者が勉強することに尽きると思います。最高の指導書は生徒の中にあるのですから。

      指導総括     石

稽古日誌2012